ー始動ー

イノセントドーム   
その名の示すように外見は巨大なガラス状のドームに包まれた
サークル都市。
そこに住む住人イノセントはこの惑星ゾラの住民には謎であった。いや彼らとて
このゾラの住民には違いないのだがその存在はすべてが謎だった。

彼らは機械を与えてくれる。

彼らは燃料を与えてくれる。

彼らは技術を与えてくれる。

それだけで充分だったのかもしれない。この星の住民はブルーストーンという
希少鉱石を掘り出しそれと引き換えにイノセントからさまざまなものを
交換していた。それだけでよかったのだ。

生きていくことに理由は要らない。

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さっきまで 死にかけていたランドシップ『レッド・サン』は今
まるで生き返った魚のようにあわただしくなっていた。

上部甲板ではミデアとシリアが武装の再装てんに暇がない。

「この40mm機関砲は使えそうだよ、弾あるのかな?」

「さっき武器庫見てきたけど、弾薬はそろってるみたいだったよ、それより
あたしらのホバギーにこのバズーカを取り付けるのを先にしよう」

「ウォーカマシンの一台もあればねぇ・・」

「ないものはないのさ、あるものでとにかく最大限の準備をしよう」

その様子を艦橋部分で見ていた砂漠の盗賊団ワイルドキャッツのリーダー「ミナ」
は原始的な伝声管で的確な指示を飛ばしていた。

「ミデアにシリア!武装が一通りすんだら 後部の13倉庫にガソリンの貯蔵があるから
ホバギーに充填しておいて、ここのとこの戦闘でほとんど空のはずよ」

「それと・・・機関部!エル!具合はどう?」

「うん、ダメージはひどいけど機材もそろってるし、やれるよ!」

「とにかく今はあまり、同じ場所にいるのはまずいんだ とりあえず動くだけでいい、任せたよ!」

「はーい!!」

と、言っても所詮少人数、指示はすぐに終わってしまう、艦橋には居心地がしっくりこない
ミナとルートを作戦モニターの前で難しい顔で考えるジモンのふたりだけになっていた。

「と、言うわけでアンタの言う指示はほぼ完了だよ。私も下に行って手伝おうかな」

「・・・うん、いやその前にちょっとこれをみてくれ」
とジモンは地図の上にデバイザーで距離を測りながらミナにしめした。

「現在地から一番近いイノセントドームはこのDポイントドームだ、このドームは完全な商用
ドームじゃないが取引はできるこのBBマークがついている。とりあえずここを目指そうと
思うんだが。」

「ふーん、いいんじゃない?あたしらはイノセントドームなんかに近づいた事もないけど
あんたの持ってる手形があれば交渉なりドームに入ることもできるんだろう?」

「あぁ、俺も何度か父と一緒にドームに出入りしたことはある。といっても執政官に
直接会ったわけじゃなく、妙な人形のような受付のやつと話しただけだがね。」

「イノセントってブルーストーン食ってるとかいう噂聞いたけど、本当かい?」

「さぁ? そんな噂は聞いたことがないけど、イノセントしか持ってない機関の燃料じゃないか・・って
いうのが運び屋の間じゃ常識だな。」

ブルーストーンは一種のガラス体の結晶でブルーの透明度が高く、色が濃いものが純度が高いと
されていた。この惑星ゾラの各所に点在する鉱物だがこれを採取するシビリアン達にはまったく
使い道のない石である、特権階級イノセントがそれらを工業製品・燃料・金・希少食品などと
交換してくれるため、それらを発掘・採取・運搬するのが運び屋達の商売となっている。

「あたしらの間じゃイノセントはブルーストーンを食べる怪物みたいなやつらじゃないか、って
いわれててさ・・・てか、なんか腹が空かないかい?」

「そうだ!なんだかんだでもう半日以上何も食べてないかも。  ちょうどいいミナ、君の仕事
が出来たよ、食堂に行って軽い食事をつくってくれないか、みんなの分」

といわれて、ミナはびっくりした顔でジモンを見つめた。

「あ、あたしが食事の世話?」
「うん、俺にも頼むよ、この航路図を仕上げないといけないんで手が離せないんだ。」

実はミナは今まで食事の支度などほとんどしたことがない。食事はエルかシリアが
専業になっていて、どうしても一人のときはだいたいトカゲの丸焼きか干し肉で
およそ料理と呼べるものではなかった。
だが、ミナとても女性である、この世界でも女性は料理がうまく家計の切り回しがうまいことが
ある程度の魅力判定基準にはなっていた為、出来ないというには抵抗があった。

「わ・・・わかったよ、やってみるから、ちょっと待ってな・・・」

それでも普段のミナなら、そんなことが出来るか!と突っぱねるところだがジモンの「俺の分も頼む」
という言葉でなぜか、やってみるか という気になっていたのだ。
シリアとエルがこの場にいれば、すぐ止めたかもしれないのだが・・・。

そしてその20分後・・・。

「ほら、食事だよ・・」

ミナはぶっきらぼうに言うと手にもった皿をジモンに差し出した。

「・・・・これは・・」

その皿に乗っていたのは、見たこともない「何か」だった。
あえて表現するなら 黒い硬い岩の上に調味料が乗っており
石炭?・・・というようなものだろうか。

「みんなは食べたのかい?」

「あぁ、いらないというやついもいたが、無理やり食わせた」

「そうか・・・じゃ頂いてみるか・・。」

ジモンはその「何か」をガリガリとかじってみたが、調味料の味以外は
炭のようなこげた味しかしなかった。

「む・・・・まぁ、いいんじゃないかな、ありがとう」

ミナはその対応にちょっと驚いた、正直自分でも失敗したと思っていたし
ミデアに至っては「あたしはエンジンじゃなんだよ!」と投げてきた
くらいだ。

その「何か」をガリガリと普通の料理のように食べているのだ。

しかも「ありがとう」とか言っている。

ジモンは変なやつだ、とミナは思った。
いままで出会ったことのないタイプの人間だ。

変な奴だが嫌な奴ではない気がした。

「まぁ、次はがんばるよ」
ミナはそういってブリッジから出て行った。

しばらくしてその「何か」をすべて食べ終えたジモンは

「次は、別の人にお願いしたいな」

と一人つぶやいた。


結局、修理は一晩かかって、早朝空が明るくなる頃にランドシップのエンジンは唸りを上げた。
歩くくらいの速度だが、ゆっくりとブラッドバレーのゆるやかな斜面を登り始め
ようやく船としての機能を開始した感じだ。

「よーし、このまま谷を越えたら、Dポイントに向かう、今後の作業はすべて移動しながらだ
できるだけ早くこの場所から移動しないと、またブローカーが攻めてくる可能性が
高くなる、みんな、もうしばらくがんばってくれ」

「ジモン!エンジンは応急で動くようにしただけだ、出力はこれ以上上げるなよ」

「わかった、谷を越えればこの出力でももう少し速度は上がるはずだ」

朝もやの中、ゆっくりと赤いランドシップは動き出した、その存在は小さなものだったが
出会いは大きなものだったことにミナが気がつくのは、もっとずっと後のことである。

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