ー砂塵の大地ー1
荒野の風が吹く。
あたたかいその風は新しい匂いを運んでくる。
ギラギラと照りつける太陽は、ミナの日に焼けた褐色の肌をさらに焼けさせる。
空を仰ぐ少女、ミナはこの惑星ゾラでは少女であっても当たり前の戦闘服を身にまとい
ホバギーと呼ばれるこれまた当たり前の戦闘機械、軽自走ホバーマシンにまたがって
ぼんやりと目をつぶっている。
ズン・・・
地をふるわせる爆発音が。
「近いな・・またどっかの運び屋の小競り合いか・・」
イィイイイィン!
ミナのとは違うホバギーが地面すれすれで近づいてくる
この地面すれすれと言うのは、思いのほか高等テクニックである。
「ミナっ! ブラットバレーだって 思わぬ拾い物が出きるかも!」
ぶわっ、とすれ違いざまに声をかけ、あっという間に通り過ぎる。
ミナよりもまだ幼い顔立ちのメガネをかけた少女がどうやら迎えに来たようだ。
「よし!いっちょ、稼ぎますか!」
ミナはホバギーの起動キーをひねるとスターターレバーを強く踏みつける。
バルルルルゥウイイイイィン、思いのほかあっさりと軽快な音でホバギーは
動き出した。
この世界の機械の燃料はほとんどガソリンか重油である、だが内燃機関としての
完成度は高く少量の燃料でも高出力だ。
ホバギーの小型ガソリンエンジンはその400kgの車体を軽々とフィンで
浮きあげる。
荒野を疾走するミナのホバギーは鮮やかなブルーに塗られ、
砂漠の砂で汚れているがそれもアクセントのように機体を飾り
独特の美しさをかもし出していた。
「エル! シリアとミデアは?」
エルと呼ばれたのは先ほど迎えに来たメガネの少女である
ミナのホバギーと並走している。
「この先のラバーロックで合流予定だよ。 あ、ほらあそこ!」
少しこ高い丘にきらりと光る機体が見える、同じホバギーだ。
たちまち近寄ってきた2台のホバギーはミナ達の2台と並走し
合図もないのにきれいに隊列を組む、ミナのホバギーはブルーに
メガネの少女はグリーン、後からやってきた二台はピンクとイエローに
塗られており、4台並ぶと鮮やかな色彩で砂漠に咲いた花のようだ。
「シリア! 状況は?」
シリアと呼ばれたのはゴーグルから金髪もまぶしいこれまた歳若い少女だ
「ガバンクラスのランドシップが3台のウォーカーマシンに襲われてるわ!」
「ランドシップのウォーカーマシンは何機?」
「二機いたけど一機はやられてもう一機は逃げていったわ、
もう風前の灯火ってとこね」
「じゃぁその3機を叩いて、漁夫の利ってのもアリかな?」
ナミの微笑みはこのような事が大好きでたまらないといった笑顔だ
ほかの3人も微笑みで返事を返す。
「よしっ、太陽の方角から奇襲するよ! あたいはランドシップを押さえる、
みんなは各個ウォーカーマシンを叩いて、できる?」
「ミナぁ、あたいらにあんなヘボブローカーが叩けないわけないだろ?」
イエローの派手なホバギーに乗った、ひときわ体格のいい少女ミデアが
歯を剥き出して、おおげさに笑う。
「さぁ、みんな、ワイルドキャッツのお仕事タイムだよっ!」
ところ変わってブラッドバレー。
「ふっ、これでもうこのランドシップのブルーストーンは頂いたも
おなじだぜぇ」
「あのランドシップにゃ、ろくな固定武装はねぇはずだブリッジの奴を
押さえりゃ船は止まる!」
二人乗りのウォーカーマシン『プロメウス』タイプは
機銃を掃射しながら渓谷の中へとランドシップを追い詰める。
プロメウスの左翼からは『クラブマン』タイプが、そして右翼からは
『ギャロップ』タイプが、ランドシップの行く手をふさいでいる形だ
ランドシップはこの海のない惑星ゾラでの輸送船であり、搬送船であり
そして戦闘船だ。
この星の唯一の法律、『三日の掟』によって戦闘は日常であり
生活のすべですらある。
あらゆる犯罪は三日のあいだにケリがつかなければ無効となる。
盗んだものでも三日で自分のもので、盗人でも立派な職業だ。
そして金を稼いで人を雇い、唯一の価値資源ブルーストーンを
採掘して搬送すれば『運び屋』になりランドシップを持つ事も可能なのだ。
盗賊などからはウォーカーマシンと呼ばれる人型汎用機械を操るブローカー達に
守らせ『バザー』を開く、一大権力者になることもできる。
だがそれとても弱肉強食、今一人の運び屋が、ランドシップが
ハイエナ達の餌食になろうとしていた。
ズズンッ・・・・
「ちぃ!左のエンジンに被弾した!くそっボーマンめ
口ばっかりであっさり逃げ出しやがって・・。」
もはや速力のみが武器となった赤いランドシップのブリッジでは
たった一人の若者が舵を握り、最後の抵抗を試みていた。
「機関室! じっちゃん!エンジンもっと回らないのかい振り切れなければ
終わりだよ!」
原始的な伝声管で叫ぶとその当人からすぐに返事が来る。
「ジモン! もうだめじゃ、いまので左のエンジンが完全に死んだ。右のも
パンク寸前だ、わし一人じゃこれ以上・・・・」
「くそっ・・・この船も親父のかたみと受け継いだけど、もうだめか・・・」
全長30mのランドシップがブラットバレーの深層へと進んでいく。
速力の落ちた船にウォーカーマシンは容易に追いついた。
軽量小回りで定評のあるギャロップタイプがホバーをふかしてランドシップの
甲板へと取り付いた。
「ハッ! これで終わりだな若いの!」
ブリッジの目の前でバズーカをかまえたブローカーが高笑いで勝利に酔いしれる。
!!
その刹那、ギャロップの上半分がなにかの冗談のように消し飛んだ。
ブリッジの歳若い艦長、ジモン・ジトーは渓谷の光がさしこむ太陽の方角から
キラキラと鮮やかな色彩の光が踊り出るのを見た。
「なっ!? どこの奴だ? ホバギーか? は、早い」
クラブマンに乗ったブローカーがランドシップに取り付くのと同時に4機のホバギーが
太陽の方角から襲いかかった。
反撃にまったくの無防備だったクラブマンのブローカーは確認するまもなく
イエローとグリーンのホバギーのバズーカに粉砕されていた。
「くそぅ! 獲物を横取りか?!ワイルドキャッツのハエどもか?!このプロメウスの
武装をなめるなよ!」
最後に残ったプロメウスタイプはブローカーが自負するだけあって、装備は
20mm機関砲にナパームガン・ワイヤーハーケンとウォーカーマシン屈指だ。
ただしそれは対ウォーカーマシン装備であるが。
そんな中最初にギャロップにバズーカを必中させたミナのホバギーは
そのままギャロップの下半身の上にホバギーを止め、すばやい動きで
ブリッジへと駆け上がる。
「船を止めなよ おにいさん!!」
ぴたりと狙うミナの手にはS&W・M29こと44マグナムリボルバーが握られている。
ブリッジにたった一人でいた、その若い少年と言ってもさほど不思議でもない
ジモンをみて、ミナは少し驚いた。
「なるほど、君もこの船のブルーストーンが目当てか。 さっき現れた時は
てっきり天使が助けにきてくれたと思ったのにな」
「天使? あんたにとっちゃ悪魔じゃないのかい?返事によってはそのまま地獄でも
送ってあげられるしね」
「ここで俺を倒して船のブルーストーンを・・・で、どうする?」
「決まってるだろ、3日経ったらにバザーでさばいて金に変えるのさ」
「どうやって運ぶんだい?ブルーストーンは10tはある この船でといっても4人で
操るには手に余る、しかもまたブローカーどもが狙ってくる・・・。」
「お、大きなお世話さ、船ごと売り飛ばすって手もあるんだ!」
ズズン!
その時プロメウスのナパームガンがランドシップの間際で炸裂した。
すでに左のエンジンが止まって不安定になってる船体は左に倒れるように
大地へとめりこみ停止した。
「フッ!!」
ジモンはその一瞬のバランスが崩れるのを狙って腰のコルトフロンティア45口径を
早撃ちした。
ギィイーン!「あうっ!」
ミナのマグナムは宙を舞い、たちまち立場が逆になる。
「俺は早撃ちにはちょっと自信があってね。」
体力には自信のなさそうなタイプだけにその特技はまさに
裏技的であった。
この惑星ゾラでは、どんな人間でも銃を持っている。
男でも女でも子供でも老人でも例外はない。
”銃を持たないものは次の日の太陽を拝めない”ということわざがあるぐらいだ。
それゆえ、銃の扱いに長けているだけでこの世界では優れた人間と言える。
「・・・撃ちなよ、それとも・・・」
力の差に油断したミナは、この場合もはや死を覚悟せねばならない、
それがこの惑星ゾラの掟だから。
「それとも?・・そうだな・・いろいろ役にも立ちそうかもしれない・・」
ジモンは狙っていたフロンティアを引っ込めた。
「取引だ、君達を俺が雇う」
ミナはそのいきなりな申し出に思わず吹き出した。
「あははは、あんたおかしいんじゃないの?私はたった今まであんたの命を取ろう
としていたんだよ、そんな人間雇うなんて!」
「そうかい? 殺す気だったら最初に撃ってるはずだ。君は相手を殺さないでも
奪えるならそっちを選ぶタイプじゃないのかい?少なくとも俺にはそう見える。」
「・・だ、だからってあんたと手を組むって言うのは話は別さ。」
「ほら、そこでさっきの話さ、君達がこの船の財産を奪ってもまたそれを狙うブローカー
に出くわすだけだ。 俺は運び屋の手形を持っている、船にあるブルーストーン
もイノセントドームまで持っていけば金にも物にも替えられる。
だけど俺にはそれを守るすべがない、でも君達が守ってくれるならドームまでは
何とかたどり着けるはずだ。」
ジモンの言うことにはもっともな部分があるとミナは思った。
このゾラを支配しているイノセント達からは、すべての機械・武器を
ブルーストーンで買っている。
だがこの星の住民シビリアン達の中でも取引ができるのは、運び屋手形を
持つものだけだ。
「でも、あたし達はこんな船でずっと働くなんてまっぴらだよ」
「別にずっと働く必要はないさ、ドームまでの間、敵がくれば戦う、
それだけでいい。
俺も親父の財産だっていうんで今までこの商売してたけどドームで船も
ブルーストーンも処分して、ウォーカマシンでも手に入れたいんだ。
しばらくはブローカー暮らしも悪くないかなってさ。
もちろん君達にもその時分け前を渡すということでね。」
「・・ふぅん、まぁ悪くない話だけど、できすぎてるって感じもするわね、
これだけの船に執着がないなんて。」
「ま、君の仲間とも相談して決めるのもいいさ。俺にはもう何の力もない。
君たちが本気でかかってくれば逃げるしかないし
ほらちょうど帰って来たみたいだ。」
谷の向こうから三台のホバギーが近づいてきているのがブリッジからよく見えた
プロメウスタイプのWMはどうやら倒したらしくガッツポーズ
で勝どきを上げている。
ミナは改めてジモンをみつめ、そのしっかりした視点とじっくり見ればまだ幼さが残るが
いい男に成長するかもしれないその容姿になにか興味を惹かれ、仲間たちをどう
説得すればいいか、そのことを考え始めているのだった。
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