ー裏切りのボーマンー

ブラッドバレーから120km北にあるオアシスでは、「バザー」が開かれていた。
主催しているのは運び屋ブーン、あこぎなあくどい商売で、悪名をはせてはいるが
商品は一流、交換レートもほかの運び屋よりもぐんと高く、気は抜けないが
その規模も大きく評判でもあった。

その主催者ブーンの元に、あるブローカーが一人、面会にきていた。

「するてぇと、おまえさんの話がホントだとすると、ブルーストーンをたんまり積んだ
ランドシップが簡単に手に入るって寸法なのかい?」

年のころなら40代後半の、太って油でぎらぎらした中年の男
「ブーン」は脇を筋肉の置物のような、用心棒二人に挟まれて、用心深く男に話掛けていた。

「兄弟達の名前にかけて!まちがいないですって!チャンスなんですって!
いまからすぐにでも行かないと、どこぞのブローカーに横取りされちまう!」

男・・・この世界の男にしては珍しい、腹の出た肥満体系のそれでいて
どこか怪しい光を、ひとみの奥に秘めたブローカー・・・ボーマン。
ボーマンはなんと自分を先日まで雇い、いやさ守るべきランドシップ
を、ブーンに売りにきていたのだ。
この世界では裏切りも立派な手段なので、それほど嫌悪感は抱かれないが
情報はやはり信頼である、いま見てきたように言っているから、それを100まで
信じていては、運び屋で名をはせるまで行かないであろう。
さすがにブーンは、信用している様子ではなかった。

「だが・・・まぁ、あんたが俺の部下と一緒に行って、首尾よくそのランドシップ
を押さえることができたなら、それからの相談・・ってことにしてもいいがな」

ぬけめなくブーンは自分の利益にダメージが出ない程度に、打算していた。
三日の掟は便利な掟だが、逆に3日のうちに罪が問われれば
築きあげたものも、すべて失ってしまう。
運び屋が運び屋を襲うのも、よくある話だがメリット・デメリットは半々だ。

「つまり私に部下と戦力を貸していただけると?」

ボーマンにしても自分のウォーカーマシンの整備・補給、そして部下も
つけてくれるなら、ここにきている目的のほとんどは達成していたので
文句はなかった。

「ただし・・・・話が嘘だったりランドシップが手に入らないって時は・・・」

ブーンの目が切れそうなほど細くなり、凄みのある眼光がボーマンに突き付けられる。

「わかってまさぁ・・その時は煮るなと焼くなと、お好きなように!」

「フン 度胸はいいようだ・・おい!シュミット!おまえとあと二・三人で
ウォーカーマシン連れて、そいつの言うところに出向いてブルーストーンを
頂いてきな! もちろんそいつが、なんか怪しいことしたときゃ・・わかってるな」

シュミットと呼ばれた右側の、筋肉の塊男が大きくうなずいて無言で格納庫に
向かっていった。

「ありがたい!ブーンさん、あんた出世するよ!」

「ボーマンとかいったな・・成功したら、部下にしてやるよ」
ブーンは本気なのか冗談なのかわからない顔で、笑っていた。

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さて、そのころブラッドバレーのランドシップ『レッドサン』、つまり
さっきまでミナ達ワイルドキャッツと、ひと悶着あった船の中の一室では
この世界では珍しい、平和的会議が始まっていた。

「と・・言うわけなんだ、みんなの意見を聞かせてよ」
普段は食堂として利用される空間では、ワイルドキャッツ4人と
レッドサン艦長ジモン・ジトー 機関長ジム・ボムボがいた。

ワイルドキャッツメンバーは

ミナ リーダー格である。褐色の肌、後ろで束ねた黒髪、野性的で
猫科を思わせるカーキの瞳としなやかな体の16歳。

エル メガネをかけた、まだあどけなさを残した少女だが
そのメカの知識と操縦のテクは、誰もが一目置く存在。15歳。

ミデア ミナと同い年だが、体格・容姿ともに、大の大人と引けを取らず
一見女性にすら見えない。実際体力も格闘センスも、ずば抜けて
性格も攻撃的だが、ミナの行動力には一目置いている。16歳

シリア 何気に最年長だが、それを鼻にかけるでもない、冷静物静かな
金髪・青い瞳の少女だ。ミナの行動力とシリアの作戦で
これまで、荒くれブローカーと渡り合ってきたといっても、過言ではない。
戦闘服がにあわないほどグラマーだが、本人はその体に多少コンプレックスが
ある。17歳

「話はわかったわ、ミナ・・・大雑把に言えばこの船に搭乗してイノセントドームまで行くと
いうことね」
シリアが口火を切って、話し始めた。

「私の意見で言わせてもらえれば、反対ね、理由は一つにリスクが大き過ぎるということ」

「そんなに危険ではないだろう? むしろ稼ぎの方が、でかいんじゃないかい?」
ミデアが割って入るように言う。

「あたいらのパターンは確かに奇襲戦法が多いけど、むしろ船に守られて戦う方が
向いてるんじゃないのかい?補給の心配もないし危険はいままでと変わらないさ」

意外にも、ミデアは乗り気でミナは驚きながらうなづいた。

「あたしの考えるリスクは他人と手を組むリスクよ」
シリアはジモンとボムを指差して言った。

「現状では確かにこの船の状態は同情的にも感じるけど、それと手を組むこととは別だし。」

そこまで言うとメンバーも言葉を失ってしまった。

と。

「信用できない気持ちはもっともだけど、見ての通り乗員で残ってるのは
ジムのじいさんと僕だけ、あとは逃げていっちゃったしね」

はじめてジモンが口を開いたので、メンバーは少し驚いて沈黙がしばらく続いた。

「でも、あとで仲間が帰ってきてあたしらが攻撃されるかもしれない・・・・」
シリアはあくまで懐疑的だ。

「君らをどうこうしても何にもいい事はないよ、むしろ助けてほしいわけだし」

「いいじゃないかシリア、とりあえずやばくなったら逃げる事もできるんだし。
とりあえずドームまでついていくだけでも・・。」

言ったあとに、ミナはなんだか自分がずいぶんジモン達ひいきで、変な気分になった。

「あたしもそれでいいと思うよ、ただ動くだけでも時間かかるけどね
さっき被弾したエンジン見てきたけど」

エルが現状を把握しつつ意見を言ったので、その小さな体に似合わぬ
先を見通した行動にみな感心した目で見つめた。

「エンジンはすぐとりかかれば明日の夜にはとりあえず動くようには
できるがの、そこのメガネ娘が手伝ってくれればもっと早くもできそうだが」

ジムじいさんもエルのメカをを見る目に一目置いたようだ。

「ま、みんながいいと言うなら私だけ反対しても仕方ないからそれでいいさ」
シリアはしぶしぶ了承した。

「と、いうわけさジモン・・・とかいったね、あんたの思わくに乗ってあげる
よ、これはワイルドキャッツ全員の意思と思ってもらっていい。」
ミナは真剣な表情で言った。メンバーも全員うなずいた。

「では、みんなこれからは、俺の指示にしたがってもらう、もちろん
これは生き残る為でもあるから、多少の不満は我慢してほしい。」

「とりあえず、ジムじいさんとエルはエンジンを頼む、ミデアとシリアは
使える部品を集めて格納庫の整理をしてくれ、武器も道具もすぐに使えるように
好きにつかってかまわない。
ミナは、僕と作戦室に来てくれ、ルートと今後のスケジュールを決めよう。」

「と、いったところで、これからよろしく」

ジモンは明るく笑うと、右手をミナ達の前に差し出した。

「ふ、ふふん、なにも馴れ合うつまりはないさ」

ミナは無愛想に手をつき返したが、顔は微妙な微笑みを浮かべていた。

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